有名小学校校長先生による強育シンポジウム2019 採録

パネルディスカッション
(以下敬称を省略させていただきます。)

「小学校の特色、教育方針、
 
授業内容について」

安田:本日はお忙しいなか、多くの方にお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日の強育シンポジウムでは、それぞれの小学校の教育方針、ご家庭でどんな教育をするべきか、どんなお子さま、保護者が望まれているのかについて、校長先生からお話しいただきます。こうしたお話をお聞きいただいて、特に現時点で年中の方は、来年の今頃には志望の小学校に合格し、入学式を楽しみに待つことができるようにしていただければと思います。ではまずは、それぞれの小学校の特色、教育方針、授業内容について伺います。

森田:名進研小学校の教育理念は、「自律と感謝の気持ちで社会に貢献する人間教育の追究」です。小学校受験をすることができるという恵まれた環境にあるお子さまだからこそ、成長して社会に出たときに世の中に尽くせる人になってほしいと考えております。社会のために何かをしようとするためには、自分で考え、判断し、行動できることが必要ですし、また、他から何かをしてもらった時に感謝する心がないと、他のために何かをしようと思うことも難しいでしょう。本校は母体が進学塾名進研であるために、ともすると進学予備校のように思われることもありますが、決して勉学だけではなく、心技体バランスよく成長し叡智と品格を兼ね備えた児童に成長していただけるように指導しています。
学習指導面での特徴としては、公立小学校の授業時間と比較して、圧倒的に授業時間数が多くなっています。平日はどの学年も6時間の授業を行い、土曜日も毎週3時間の授業があるため、6年間で公立小学校より1390時間多く授業時間を確保でき、この豊富な授業時間で、アクティブラーニングと中学受験指導に取り組みます。具体的にご説明しますと、児童が授業の司会を行うことで学びを主体的に進める「子ども司会」や、学び方そのものを学ぶ独自科目の「礎」でアクティブラーニングを進めています。また、受験指導について6年生の時間割を例に挙げますと、平日の5・6時間目に進学塾名進研のテキストを使って受験対策の授業を行い、土曜日には週テストでその週の内容を確認しています。また塾の季節講習に当たる内容や、模擬試験なども学内で行っておりますので、万全の対策を進めることができます。
心の教育の面では、副教材「言葉と作法」を毎日音読することで道徳心を育み、道徳の授業内ではソーシャルスキルトレーニングで対人コミュニケーションを学びます。伝統文化教育も充実しています。学内に能舞台があり、和室では茶道、華道、簡単な浴衣の着付けもできるようになっています。他にも、生命を慈しむ心を育むことができるポニーの乗馬は、児童からも大人気です。

:椙山女学園全体の教育理念は「人間になろう」となっていて、この「人間」とは、「ひとを大切にできる人間、ひとと支え合える人間、自らがんばれる人間」を意味します。こうした理念に基づいた教育を保育園・幼稚園、新設される子ども園から、大学院まで一貫して行えるということが本学の強みです。男女共同参画社会の中でなぜ女子教育が必要なのかと言いますと、この超人口減少社会においては、女性の活躍は必要不可欠であり、女子だけであるためにジェンダーバイアスに左右されない環境の中で、女子だけで全てを行う経験を重ねることは大きなメリットがあります。
本学園113年の歴史と伝統の中で培われた教育でもって、自分の頭で考えて自分の言葉で表現する子どもの育成に取り組んでおりますが、伝統とあわせて新しいことも進んで取り入れています。具体的に申しますと、論理的思考力を伸ばすために行っているプログラミング教育については全国トップクラスです。ただ先生に言われた通りプログラミングし、ロボットを動かすのではなく、プログラムの組み方とロボットの動きを自分たちで考え、共同で試行錯誤して共同的思考、論理的思考を育てています。
また、表現力のトレーニングとして毎日日記を書き、担任が毎日コメントを入れるということを1年生から6年生まで6年間続けることで、日本語の表現力がつきます。英語についても非常に力を入れていて、5人のネイティブ常勤講師が英語の授業以外にも関わっていますので、使える英語力が身につきます。情操教育として日本舞踊に取り組んでいますし、今年は生徒の合唱と名古屋フィルハーモニーの演奏の共演コンサートも行います。 また多くの学校は週目標を設定していますが、個別的で指示的な目標では自分で考える力にならないため、週目標を廃止し、自分で考えて行動するため「~を考えよう」という月目標を設定するようにしました。この月目標は学級通信で保護者の方と共有するようにしています。

西脇:まずは、南山小学校の1日がどんなものなのか、動画をご覧ください。〈動画が上映されました〉
本校は1936年に開校し、戦後2008年に復活して今年で10周年を迎えました。10周年の節目として、これまでの蓄積をご覧いただく教育研究会も開催いたします。また今年度には、第2グラウンドを整備しました。子どもにとって、遊ぶことも学ぶことと同様に重要であり、ドッジボールなどをして児童は楽しく遊んでいる姿が見られます。
1年生の国語を例に授業を見てみますと、音読する際の感情の表現を、身振り手振りを使って考えている一幕がありました。こうした身体性を伴った表現は低学年だけではなく、どの学年でも重要です。授業の準備や片づけも、どの学年でもすすんで取り組んでくれていて、1年生の後半にもなりますと、大きな掲示用紙も上手に巻けるようになっていて、こうした姿を見ると非常に嬉しく思います。

 

「家庭での教育について」

南山小学校校長 西脇 良 先生

南山大学附属小学校校長 西脇 良 先生

安田:ありがとうございました。保護者の皆さまにおかれましては、それぞれの小学校の校長先生のお話を聞かれて、お子さまを志望の小学校にぜひ入学させたいという思いを強くされたと思います。
ここからは、お子さまの成長のためにご家庭での教育がどのようにあるべきなのかというお話もしていただきたいと思います。

:しつけのスタイルによって、子どもの語彙力は大きく変わるということが研究によって明らかになっています。親子の触れ合いを大切にし、楽しい経験を親子で共有する「共有型スタイル」だと、子どもの発話が増えるため、語彙力が成長します。反対に、決まりを作って、言いつけた通りになるまで子どもを責め、時には力によるしつけも厭わない「強制型スタイル」の場合には、子どもの語彙力は育たなくなります。子どもの語彙力は小学校入学後の学びを左右しますので、「共有型スタイル」でお子さまに接していただきたいと思います。また、子どもが自分自身と向き合えるように、自分自身で選択・決定できるようにサポートすることも重要ですし、結果ではなくそこに向けて努力した過程を褒めることも重要です。

西脇:子どもの教育においては、学校と連携して共に歩んでいただけるご家庭であることが望まれます。子どもにとって、家庭と学校は地続きです。家庭生活、学校生活のどちらかで問題が起きたときに、それをもう一方に隠すということは子どもにとって良くありません。何か問題が起きたときに、家庭と学校が連携して解決に当たっていきます。また、学習と生活も地続きです。読解力も、日々のコミュニケーションの中から育ってくるものです。言葉で交わすコミュニケーションだけでなく、視線や態度といった非言語コミュニケーションも重視していただきたいと思います。また認知能力という面でも、整理整頓の仕方などで実践的に発達するものです。
教育は子どもに授けるものではなく、教育する側の自己成長と不可分です。子どもの育て方に反映される、保護者の育てられ方を見つめ直すことにも学校は寄り添ってまいります。

森田:「小学校に入ってから伸びる子どもとは」という質問を保護者の方からいただくこともありますが、ひと言でお答えするならば、素直な心を大事にしたいということになります。本校の生徒を見ていて感じられる、素直な子どもの特徴とは、人の話を聞くことができること、ものごとを肯定的に受けとめられること、感情表現が豊かであること、裏表がないこと、の4つが挙げられます。そしてその素直な心を育てていくために保護者の方に気をつけていただくこととして、3つのことがあげられます。まず笑顔で朗らかに接することです。細かく言いますと、保護者の方は「ダメだよ」というようなマイナス表現ではなく、プラスの表現で話すことが必要です。また、子どもの話をよく聞いてあげることも同様に大切です。それから2点目は、規則正しい生活をすることです。早寝・早起き・朝ご飯で養われるものとして、集中力があります。集中力を発揮することができるかどうかの差はあっても、集中力がない子どもというのはいないと考えています。皆が持っているはずの集中力を発揮できなくなるのはなぜかというと、生活の乱れが原因としてあるのです。3点目として子どもの好奇心をくすぐることです。好奇心が旺盛であれば、多くのことを学び吸収していきます。子どもの「なぜ」「どうして」を大切にして、将来役に立つかに関わらず、好奇心をくすぐってあげることを意識してください。

 

「どんな保護者が望まれるのか」

名進研小学校校長 森田 圭介 先生

名進研小学校校長 森田 圭介 先生

安田:大学入試改革が行われるに際して、小学校受験の入試も変化してきています。こうした変化の中で、各私立小学校の入試でも行われている面接試験がますます重視されることになると思います。面接試験の場において、どのような保護者が求められるかということもお聞きしたいと思います。

西脇:本校のアドミッションポリシーの中で、保護者の方に求めることは3点あります。まず1点目は、先ほどお話したことと通じておりますが、子どもの教育のために学習面・生活面で小学校と連携できる方であることです。これは、保護者の方が学校に来る時間が増えるといったことではなく、お子さまの学校での様子をいかに気にしていただくかということです。2点目は、子どもを育てていくなかで自らも成長していこうとする姿勢をお持ちの方であることです。子どもは保護者との相互作用の中で育っていくものですから、保護者の方が更に成長していこうとする姿勢を持たないと、子どもも成長していくことができません。大人になってからも、挨拶ができる、お礼が言える、謝ることができるということも大切ではないかと思います。もう1点は保護者同士の関係を良好に進めることができる方であるということです。我が子を守るために、それぞれの家庭に正義がありますが、正義と正義がぶつかり合うことで争いが起こります。我が子のことだけではなく、相手のことも深く考えてお互いの正しさを理解し、譲りあえる方に、本校にご入学いただきたいと思います。

森田:何よりも子どもの自律を妨げないようにしていただきたいです。子育てというのは、いずれその子どもが親から離れても一人で生活していけるようにすることですので、保護者の方には、いかに子どもから離れていくことができるかということも常に気にしていただきたいと思います。 アメリカで表面化してきている問題として、ヘリコプターペアレントというものがあります。これは、子どもが失敗しないように先回りして助けてしまったり、子どもの力を信用せず、親がいないとダメだと決めつけてしまったりする保護者のことです。このように育てられてしまうと、子どもは自信が持てませんし、自分で判断すること、自己管理することもできなくなってしまいます。子どもを大事に育てるということは、手を出しすぎることではないということをご理解いただいて、学校と協力して子どもの自律を助けていける保護者の方にご入学いただけると嬉しいと思います。

:面接の場において、というお話がありましたので、面接についてお伝えします。こう聞かれたらこう答えようと、前もって答えを用意し反復して練習するのではなく、思ったことをお子さま自身の言葉で表現できるかという点を見たいと考えています。保護者の方も、面接には準備をして臨まれるかと思いますが、本番ではご自身の表現で答えを組み立てるようにしていただいて良いと思います。お子さまの成長のため、保護者の方には科目知識の量だけを追い求めるのではなく、様々な活動をさせてあげてください。また、お子さまが良好な対人関係を構築できるようにしてあげることも必要です。職務や役割の中で成果を出す力を示すコンピテンシーについて、高校別に調査した記録によると、超進学校と呼ばれる高校ではコンピテンシーの高い生徒も多い反面、コンピテンシーの低い生徒も多いという結果が出ています。中堅校では、コンピテンシーが十分な生徒が多いという数値も合わせてみると、保護者の方には、知識量などの既成の価値観にとらわれずお子さまにさまざまな活動を経験させてあげていただきたいと思います。

 

「どんな子どもが望まれるのか」

椙山小学校校長 森 和久 先生

椙山女学園大学附属小学校校長 森 和久 先生

安田:校長先生がお話しされたことについては、受験のためだけではなく、お子さまが幸せに成長できる家庭にするということでも重要です。お子さまは一生懸命頑張っていますので、ぜひ保護者の方には校長先生のお話を受けて、お子さまを後押しできるように実践していただきたいと思います。では続いて、各小学校がどのようなお子さまを望まれるのかもお聞きします。

森田:本校で入試を行う際に見させていただきたいのは、学びに向かう力としての5点で、好奇心・協調性・がんばる力・自己主張・自己抑制です。自己主張と自己抑制は相反するものですが、この両面がバランスよく、年長らしく育っていると良いと思います。小さいお子さまは自己主張の方が強いので抑えなければと思われがちですし、他人に譲ってあげられるやさしさも素晴らしいのですが、自分がどうしたいのかということを伝えられることも同様に重要です。

:先ほどもお伝えしましたが、自分の頭で考え、自分の言葉で表現できること、そして人と支え合えることをお子さまには望みますし、入試においてもこれらの点は重視しています。これらの力は、入学していただく段階であることが望ましいのですが、入学してからも本校の教育で伸ばしていきたいと考えています。その鍵となるのは、豊かな体験的活動と言語活動、そして主体的・対話的で深い学びです。このような学習はアクティブラーニングと呼ばれますが、活動という手法のみに囚われて学びが無い状況ではいけません。だからこそあえて 「深い」学びとしているわけですが、「深い」学びとは、学んだ知識を既に知っている知識や他の事柄と関連付ける力を養うことを意味しています。

西脇:本校が求める幼児像はアドミッションポリシーにて示させていただいています。まず、手を合わせて祈ることを大切にできる子です。これは宗教的な行為というよりも、自分を見つめ直して、自分作りの地平を規定するということです。次には、何事にも意欲的に取り組むことができる子です。まずは日々の生活の中で認知発達を図るために、基本的な生活習慣を楽しく身に着けることと、豊かな経験を重ねることを大切にしていただきたいと思います。最後に、友だちに優しくできる子です。これは家庭でお互いをいたわることによって育まれるものですので、思いやりのある親子の会話が大切になります。しかし、お子さまは皆もともとこのような力を持っているはずですので、それを引き出すのが学校の役割であるとも考えています。

 

「参加者へのメッセージ」

安田:小学校受験には特殊性がありますので、どのように準備をしたらいいかというお悩みもあるかと思いますし、さまざまな噂も耳にされるかと思います。しかし、そのような噂に惑わされることなく、今の校長先生方がお話された内容をぜひ実践していただきたいと思います。では最後に、保護者の皆様へ校長先生方からメッセージをいただきたいと思います。

:ベストセラーになっています『学力の経済学』という本に、子どもの将来の年収などに最も影響を及ぼすのがどの時期の教育かというと、幼児教育であると書かれています。小学校での体験がお子さまの将来にどれだけ活きるかということをお考えいただき、進路を決めていただければと思います。

森田:小学校受験は、年長時点での学力を図るものではありません。入学試験は筆記試験での結果がすべてではなく、お子さまと学校、家庭と学校が6年間良好な関係で向き合い、お子さまを伸ばしていけるかという点が最も見られる部分です。そのためには、先ほども申し上げました通り、基本的な生活習慣を身に着け、素直な心を育んでいただくことが一番の受験対策です。

西脇:小学校受験は、単に学校を選んだり、あるいは入試に合格するだけのプロセスではありません。保護者の方も親として成長できる機会であり、育児のあり方、家庭のあり方を見つめ直すことができる時期なのです。

安田:本日はありがとうございました。